【2016年】スウェーデン人DJ Aviciiは、なぜこんなにもすごいのか?【来日記念】

2011年から2012年の学生生活をスウェーデンで過ごした者にとってはだれでも、Avicii(アヴィーチー)の存在は特別な意味を持つ。

2010年代から欧米で流行し始めたEDM(エレクトロ・ダンス・ミュージック)。その頂点に君臨した、内向的で地味で、どこかメランコリックな孤高の天才。彼は2010年代前半のヨーロッパカルチャーを切り取るひとりのプレイヤーであり、スウェーデンという小さな北国のアイコンであり、そしてEDMというジャンルの可能性を拡張したスターでもあった。

EDMという音楽のジャンルをひとことで説明すると「パリピの曲」である。クラブで大音量でかけて踊るためだけに設計されたそのメロディラインと歌詞からは徹底的に意味性が排除され、単語は母音と子音の連なりとして繰り返され消費される。それは決してそれ自体を非難されるべきものではない―ひとはその無意味さをときに「若さ」と呼ぶのだから。しかしそのなかにあってAviciiの曲はつねにどこか寂しく陰鬱な魅力でひとを惹きつけつづけ、そしてその喪失感のなかの救いと光を奏でつづけた。

Aviciiの歌詞

EDMの歌詞は(というかアメリカのポップソングは大体)、酒池肉林的というか、下世話な歌詞が多い。パーティ、アルコール、セックスの隠喩×1000、のような。まあ酒池肉林のためにつくられた曲なのだから、それもあたりまえといえばあたりまえなのだが。

Aviciiの魅力は翻って、そうした下世話な詞を一切退け、抽象的で叙情的な詞を生み出しつづけたところにある。たとえばAviciiの曲は往々にして、わたし(I)とあなた(You)の関係を定義しない。それは恋愛関係であり、友愛関係であり、親子関係であり、Avicii本人と聴く人の関係である。同時にAviciiの曲のYouやIはしばしば性別不特定だが、この辺の特徴はスウェーデンのジェンダー平等のマインドからくるのかもしれない。

「これぞスウェーデン!」というかんじの(笑)男ふたり女ひとりのロードムービー風のMV。タイトルの「Seek Bromance」は「男同士の性的でない親密な関係」

Aviciiのテーマ

Aviciiが好んで曲にとりあげるテーマも、よくあるパーリナイ!な曲とはかけ離れたものだ。ひとことで言えば、上品でありながら陰を秘めた主題、がAviciiのテーマの特徴だ。

大ヒットを記録した「The Nights」は、「自分が子どもだったころに父が語ってくれたこと」がテーマだし、「Waiting for Love」は(ミュージックビデオのテーマが)「ずっとなかよしだったわんちゃんと少年の話」である。クラブミュージックという親子関係からもっとも離れたところにある曲のジャンルで小学校の国語の教科書にでもでてきそうな歌詞が展開され、ティーンがそれに熱狂しているのはシュールといえなくもないが、AviciiはそんなふうにしてEDMの枠組みをやすやすと越える。そしてこの洗練されたテーマ選択は、Aviciiが万人に受け入れられるようになった理由でもあるだろう。

Aviciiのメロディ

Aviciiはメロディのつくりかたも特徴的だ。彼の曲は決して、圧倒的にポジティブでイージーゴーイングな「よくあるEDM」ではなくむしろ暗い曲が多いのだが、Bメロで助走をつけ、キャッチ―なサビ、そして大サビの最後でカタルシスをはめる、という「型」はしっかりと踏襲する。お行儀がよく、誠実な構成だ。カントリー調や謎の木琴など、朴訥としたアレンジが多いのも特徴だ。

しかしなんといってもAviciiのメロディの一番の醍醐味は、「Avicii節」ともいうべき、せつなくノスタルジックでメランコリックな調のつらなりだ。それは80年代ポップ風であり、世紀末風でもあり、そしてなにより、2010年代初頭のストックホルムの路地裏の雰囲気にパーフェクトにあっていたのだった。

富と名声とそれに劣らぬ才能、DJとしての頂点に上り詰めたAviciiは2016年、突如引退を宣言する。その理由は、長年患っている病気のため、そしてほかにやりたいことをやってみたい、というなんともあっさりしたものだった。

そして(3度のドタキャンをしたあとについに達成した)最初で最後の来日公演の前日、Aviciiは幼なじみのDJであるOtto Knowsと共作で新曲を発表する。

その曲では、「すべてを終えたあと、自分は故郷(ホーム)へ戻る」というメッセージが、ストックホルムの光あふれる景色とともに、たからかに歌い上げられていた。

参考:【2015年】この夏のヨーロッパのヒットチャートがせつなく、素晴らしい


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