「パナマ文書」―その問題の本質とは

4月4日に流出した「パナマ文書」の内容が世界中に波紋を広げています。

「パナマ文書」とは?

4月4日、ICIJ(International Consortium of Investigative Journalists:国際調査報道ジャーナリスト連合)がリークした、パナマの法律事務所で、タックス・ヘイブンの世界最大の取扱業者である「Mossack Fonseca(モサック・フォンセカ)」の過去40年にわたる業務内容に関するデータ。そのデータ量は過去のリーク史上最大ともいわれる。流出した顧客のなかには政界、財界、著名人が多く含まれ、特に12人の現あるいは元国家首脳をふくむ143人の政治家の名前やその親族などがリストに挙がっている。(GIGAZINE より)

なにが問題になっているのか?

ここで問題になっている「タックス・ヘイブンを使って租税回避をする」という行為は多くの場合には違法ではありません。では今ここで問題になっているのはなんなのかというと、「その法を作り出したシステム自体に問題があった」ことに人々が気づいた、という点にあります。

この租税回避を可能にした大枠の仕組みは、近年急速に広がっている自由貿易協定(FTA)による「ヒト・モノ・カネの移動の自由化」の動きです。アメリカとパナマも2012年にFTAを結んでいます。FTAは「消費者にとってはより良く安価なサービスを、労働者にはより広い労働市場を、産業にはより多くのマーケットチャンスをもたらす」と喧伝されますが、「実際は富めるものをより富ませ、貧しいものをさらに貧しくする」格差を広げる協定だとして世界中で非難が強まっています。リーマン・ショックから長引く不況と就業率の低下、さらには移民の増加などからヨーロッパやアメリカでは最近とくに反FTAの動きは活発になってきています。ここ数年のEU加盟国による反EU運動や、アメリカ大統領選での反TPP勢力の躍進もこの「FTA推進の動きの揺り戻し」ととらえていいでしょう。

そんな中起きたのが今回の「パナマ文書」事件でした。パナマ文書は「FTAを推進した人々がFTAによってどれだけ利益を得ていたか」を決定的に明らかにしたのです。資産家たちはFTAによる「自由なカネの動き」を活用して租税回避をすることができますが、資本のない一般市民はそんなことはできません。またさらに、その租税回避をしていた人々のなかには、大多数の国民の声を聞き、資産の再分配をすべき政治家の名前も多数含まれていました。つまり、今回の「パナマ文書」が人々に見せたのは、FTAによって租税回避をし私腹を肥やす上位1%の富裕層と彼らに癒着した政治家、そして財政難と貧困にあえぐ下位99%の人々―そんなイメージだったのです。

オバマ大統領もこのニュースを受けて「租税回避行為が違法でないこと、そのこと自体が問題なのだ。一握りの富裕層だけが法律家を雇い、オフショア企業にアクセスできること。そしてなにより、彼らがこのゲームを支配していること―それが問題だ」とコメントしています。

アイスランドの反応

このニュースに最も過敏に反応したのはなんといってもアイスランドでしょう。アイスランドでは、パナマ文書がリークした翌日に国会議事堂前で首相退陣を求める大規模なデモが発生。参加者は人口の10%とも言われ、これは日本でいうと約1000万人が集まった計算になります。

このスキャンダルを受けて、アイスランドの首相は4月6日辞任を表明。しかし、そのあとで「辞任は一時的なものだ」と言ったり、依然党首の座には留まり続けたり、首相の後任としてに同じ党の農業・漁業大臣を選んだりと(同じ党には「パナマ文書」に名前が載った議員がいる)事態は混迷。から市民の不満はまだまだ収まらず、抗議活動は続きそうです。

しかし、なぜアイスランドはここまで首相の租税回避問題に反発するのでしょうか?

アイスランドはもともと、特定の政党が代わる代わる連立政権を握り、あたらしい政局が生まれない状態が長く続いていました。それに加え、2008年の金融危機によって国民の政治不信はピークに達し、「権力者は国民に利益をもたらさない、遠い存在である」という意識が蔓延しています。

アイスランドでは2015年から「海賊党」という、2012年に誕生した新しい政党が急速に支持率を伸ばしています。海賊党は今日のアイスランド政治に欠けている「権力を持つ者と持たない者の力の差の是正を掲げ、デジタルテクノロジーを駆使したオンラインプラットフォームでの政策決定や情報の徹底的な透明性を推進し人々の人気を集めています。この海賊党の急激な躍進も、人々の従来型政治への反発の表れ、と見られています。

ここで突然明るみに出た首相の租税回避問題。やはり権力者は国民を裏切っていた―その事実にアイスランド国民は怒りを爆発させているのです。この「パナマ文書」リークのあと行われた世論調査によると、国民の81%が首相退陣を求めており、また海賊党の支持率は43%に達しています


近年の反グローバリゼーション、反FTAの世界的な動きにも通じる今回の「パナマ文書」事件。富裕層の租税回避の問題は、そのままグローバルな経済システムの問題、そして「権力者と被権力者の力関係」の問題にリンクしています。このリークによって世界の政治はどう変わっていくのでしょうか。


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